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若者よ・・・〜「生」に触れ「生」を楽しめ・・・肌で感じる存在こそ本物〜
夢を持ち続ける大切さ、夢に向かって一歩踏み出す勇気をー。今、芸術の各分野で世界を舞台に、日本の若者たちが活躍し、閉塞感を打ち破ろうとしている。そんな次世代の若者たちに、世界の第一線で活躍し続ける建築家の安藤忠雄さん、指揮者の佐渡裕さんがメッセージを送る。(司会・構成坂下芳樹、北村理)
☆世界で活躍する日本人
一 安藤さんはアジアやヨーロッパから設計の依頼があり、佐渡さんは今年5月にベルリン・フィルの指揮台に立ちます
安藤: 現在、ポーランド、スロベニアから美術館をつくる依頼がきています。建築の仕事というのは経済と密接に関係していますから、景気の悪い日本よりも、むしろ海外との関わりが多くなってきています。でも、佐渡さんもそうですが、建築、音楽など多彩な分野で今、日本の若い世代が世界で活躍し始めている。それはとてもうれしいこと。高度経済成長以降、経済大国として成長している間は誰も気付きませんでしたが、意外にも日本の文化度の高さのようなものを感じています。
佐渡: パリでもベルリンでも書店のショーウインドーに安藤さんの分厚い建築の写真集が飾ってあるんです。そんなのを見ると、本当に勇気が出てくるんですね。僕がベルリン・フイルの指揮台に立つことは運の良さもあったのでしょう。そこに導いてくれた周囲の人たちの力も大きいと思っています。今年で、ちょうど50歳になります。もう肩肘張って指揮台に立とうとは思っていません。今は自然体でどこまでやれるかと思っています。
☆飛躍のカギは「発見ある教育」
一 お二人を見ていると日本の文化の力も決して世界に負けていない。建築ではベネチア・ビエンナーレ国際建築展で石上純也さんが金獅子賞、音楽ではベルリン・フィルのコンサーマスターに樫本大進さんが就任するなど、確かに30代の若い世代の活躍も目立ってきています。
佐渡: 日本では全国の約8割の学校に吹奏楽部が窃る。それは世界でも極めて珍しいそとなんです。まさに、私はそういう環境で育ってきたわけです。日本の音楽教育でみんながある程度平均的に楽器に触れていることは決して悪いことではなく、それをどのように、よりすごい感動や面白いものにつなけていくかが課題だと思っています。
安藤: 建築でも大学での教育は進んでいてすばらしいものがある。でも、そこからどう抜きん出るか。そこを打ち破れば、日本人の世界での活躍はもっとめざましいものになると思っています。
一 教育のあり方が大切だと
安藤: 音楽でも美術でも先生が、自分は面白いことをしているんだと思ってもらいたいですね。こんなに新しい発見のある仕事なんだ、と。われわれも建築を通して、次の世代に新しい発見をしてもらえるようなものを目指したいと思っているんです。新しい発見や、新しい体験をした人はその感動を、生きる力に変えていく。そうしたことを考えると、子供のころから感受性の高い審美眼と感性とを育てていかないといけない。とくに15歳ぐらいまでの教育というのは、とても大事だと思います。
☆社会が「出合い」後押しを
佐渡: 日本の子供の教育で欠如しているのは、鑑賞能力を育てることです。ヨーロッパでは子供たちの感性を磨くことに対して、社会の措置はとても手厚い。料金が何万円もするコンサートでも、大学生まではたいへん安くなっています。
安藤: 日本も、そうしないといけないですね。
佐渡: 偉大な作品に出合って感動することにもつながる。私が芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターでは、県内の中学1年生全員に、音楽の授業で演奏を聴きに来てもらうようにしています。もう少ししたら20歳になる子はみなセンターで音楽を聴いているということになります。
一 子供たちが生の演奏を聴くという教育方法は画期的ですね
佐渡: 家でもDVDなどでいろいろなものが鑑賞できる時代になったのですが、生の面白さを味わうということが必要でしょうね。生で見ると、知らない人が横に座っているわけじゃないですか。劇場に足を運ぶということは、人が共存しているということです。自ら望んで2時間なり3時間なり、そこに閉じこめられた状態で体験を共有する。これは面倒くさいことのようで、結構大事なことかもしれないなと思います。
☆空気感の共有が大事
安藤: 佐渡さんが指揮をするベルリン・フィルは、建築家ハンス・シャロウンの建物です。完成直後の1965年、私がヨーロッパを旅していたときに訪れましたが、中に入っただけで興奮する。一般的にホールは四角い形ですが、あそこは五角形になっている。観客、演奏家、建築家の思いが一体となった、おそらく20世紀にできたホールでも最高のものだと思います。
佐渡: 指揮台もホールの真ん中にあり、客席が迫ってくる。実はあのホールは舞台裏が食堂なんです。演奏が終わると観客が「今日はよかったな」と、ビールを飲みながら話している。楽団のメンバーも同じように息抜きをしている。一体となって肌と肌で存在を感じあっているのですね。
安藤: 大事なことですよ。今はコンピューター中心の社会で、みんな自分の中に独立した世界を一つ持っている。佐渡さんが言われたように、音楽を聞いて自分が感動し隣の人も感動するという、人と人の間で共有することが大切なのに、今の世界ではそれを感じられない人がたくさんいる、そうしたコンピューター的な世界にひたっている人は、社会における大きな事を最終的には成し遂げることはできない。
あるレベルまでは達するでしょうが、熱い思いがないからそれ以上には伸びない。だから、劇場でみんなと音楽を語り合うという体験を若いころからするのは重要だと思います。
佐渡: 単純に言うと、自分も他人も興奮して一緒に拍手している、というのが大きいことだと思います。劇場では目の前の空気が振動し、それに感動しているわけですから、スピーカーやヘッドホンで聞いているものとは全然違います、演奏家の呼吸が伝わってくる。かつて桂枝雀さんの落語を聞いていましてね、こんなに客席が波を打って笑うのかと思ったことがあります。
そういうことはビデオを見ていても分からない。昨年のサッカーのW杯でも、みんな誰かと感動したい気持ちを失っていないんだと感じました。東京でも大阪でもみんな明け方まで待って、街頭やスタジアムで中継を見て、熱狂して応援した。本来は誰もがそうしたことを望んでいるんじゃないでしょうか。
安藤: 身体の奥で望んでいるのでしょう。そして、やってみたら面白いだろうなと思うけれども、一歩踏み込む勇気がないんです。
☆文化国家 世界にアピール
安藤: 少し話は変わりますが、先日、ノーベル化学賞を受賞された根岸英一先生とお話しする機会があったのですが、私はつくづく日本人という民族は世界でも優秀だと思います。音楽でも、佐渡さんや小澤征爾さんら、いろいろな人が世界に向けて発信している。
建築でも江戸初期の桂離宮は傑作で、その技術感性のDNAがわれねれに伝わっていると思うんです。以前は、その文化度の高さに対して敬意が表され、世界でも存在感がありました。ですからもう一度、日本は文化国家なんだとアジアに、世界に向けて発信することが大事であり、それによってまた、次の時代を担う子供たちが出てくる。経済だけじゃなく、文化を、生活を楽しむ国として頑張ってほしい。
佐渡: 日本もおもしろいことをたくさんやっている。昨年夏にオペラ「キャンディード」でカナダの演出家がきたとき「今回の来日の一番の目的は(瀬戸内国際芸術祭の)直島に行くことだ」と言われ、驚きました。
安藤: 瀬戸内海の島々を舞台にした瀬戸内国際芸術祭は予想の3倍以上の93万人が訪れました。直島には私が設計した地中美術館もあり、瀬戸内の自然と人々の生活がうまくコラボレーションした現代アートの祭典となりました。
実は約20年前、今回の芸術祭でプロデューサーも務めたベネッセホールディングスの福武網一郎さんに計画を打ち明けられたんですが、そのときには夢物語にしか聞こえなかった。大正、昭和の半世紀にわたって直島は工場から排出された亜硫酸ガスの影響で緑を失い、荒廃した島でした。
でも福武さんには「美しい海と環境を取り戻したい。一流の芸術家の表現の場とすることで、人々の感性が磨かれるような島にしたい」と信念があった。福武さんをはじめ地域の人たちの熱い思いが通じたからこそ成功した良い例です。
☆夢があるからへこたれない
一 最後に若い人たちにメッセージを
安藤: 自分で自分を変えるしかない。やっぱり勇気を出して、一歩踏み出さないといけない。勇気は、子供のころに感動した体験があれば出ると思うんですよ。われわれも子供のころに何かをして面白かった、という感動があるから、大人になっても無謀と思えるようなところにも足を踏み込める。そして失敗し、また踏み込む。また失敗する。その中から新しい世界が開けていくんです。
佐渡: 僕は本当に勉強ができなくて、京都市立芸大でもよく卒業できたなというぐらい、ギリギリの成績だったんです。しかし、自分の中で成績だけではおさまりきらないものがあったんですよ。それが今、ヨーロッパに行っても「まあ、何とかなるやろ」というやんちゃな部分につながっている。それはもしかすると夢なのかなと。
小学生のときの卒業文集に「ベルリンの指揮者になりたい」と書いたんです。今その夢がかなうわけですが、ベルリン・フィルのことは頭の中にない時代もありました。具体的に、もしかしたらベルリン・フィルで振れるかもしれないと思い始めたのは、本当のところ40歳ぐらいになってからですよ。ずっと思い続けたからかなったのかなと。夢があるからへこたれない。だからみんなにも夢を大切にしてほしいと思うんです。
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